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副鼻腔炎・上顎洞炎

インプラント治療の合併症の一つに副鼻腔炎(上顎洞炎)があります。副鼻腔炎はウイルスや細菌、真菌などによる感染が主原因ですが、鼻腔を感染経路として経由しない歯性上顎洞炎があります。

副鼻腔炎(上顎洞炎)は耳鼻科領域の病気ですが、歯の根が割れていたり、歯の根が膿んでいたり、インプラント治療など歯科領域に関連して発症する場合を歯性上顎洞炎と呼んでいます。

歯性上顎洞炎とは

上顎の歯のう蝕や歯根破折、歯周病に関連した細菌による炎症が上顎洞(蓄膿症(ちくのうしょう)で膿(うみ)がたまる場所)に炎症を起こすことがあります。これを歯性上顎洞炎といいます。

上顎洞は上顎の歯と接近しているので、う蝕や歯根破折、歯周病を治療せずに放置していると、歯性上顎洞炎になることがあります。

急性の場合には、歯の痛みに続いて、突然悪臭の強い膿のような鼻汁や頬の痛みが現れます。

慢性の場合には、鼻づまりや膿が出てくることが主症状で歯の痛みは比較的少ない場合が多いです。

引用元

副鼻腔炎診療の手引き 日本耳鼻科学会/編 金原出版株式会社
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/11/115_994/_pdf

歯性上顎洞炎を引き起こす原因

上顎洞炎は、上顎の歯の歯周病が進行したり、歯の根の先に膿を持っていたり、歯の根が割れているなど、歯や周囲に感染があることによって起こる病気です。

また、インプラントを埋め込んだ場合やインプラント手術を行う為にサイナスリフトやソケットリフトなどの骨造成手術に関連して上顎洞炎が起きる場合があります。

主な症状

歯性上顎洞炎は左右の鼻のどちらかに発生するケースが多いのが特徴です。慢性の場合には痛みを伴うことはありません。目に見える症状としては

といったものです。[※1]

急性上顎洞炎の場合には以下のような症状が見られます。※2

このような症状が片側のみに起こる場合は、歯性上顎洞炎である可能性があり、耳鼻科の治療だけでは改善されないことが考えられます。耳鼻科の受診で症状が改善しない場合には、歯科医院でも診てもらいましょう。

上顎洞炎の治療法

 抜歯を行う

虫歯・歯周病・歯根破折が原因で発症した場合は抜歯を行います。

抗生物質など薬剤・消炎剤を服用する。

細菌感染が原因で上顎洞炎が起こっている場合は抗生物質や薬剤・消炎剤を服用し炎症を抑えます。

 E.S.S.(Endoscopic Sinus Surgery)を行う。

副鼻腔炎の直接の原因はウイルスや細菌の場合が多いのですが、患者さん自身の生まれ持った解剖学的形態が副鼻腔炎に大きく関与している場合があります。

副鼻腔は上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞がありますが、上顎洞、篩骨洞、前頭洞は中鼻道自然孔ルート(ostiomeatal complex)という粘液を排泄する管に粘液を出している為、繋がっています。

副鼻腔内は洞内の表面をおおう粘膜から1日1.8リットル程度の粘液を出すことにより、副鼻腔内を無菌に保っています。

しかし、鼻中隔湾曲その他の解剖学的形態によって、粘液を排泄する中鼻道自然孔ルート(ostiomeatal complex)が狭い場合、粘液の排泄が不十分になり、副鼻腔炎がなかなか治らない場合があります。

篩骨の形態によって粘液の排泄が不十分なことが原因で上顎洞炎が治らない場合は内視鏡を用いて複雑な篩骨形態を単洞化することによって、粘液を排泄する中鼻道自然孔ルート(ostiomeatal complex)を拡大することにより、スムーズに粘液を排泄できるような環境を作る手術を行います。

 上顎洞内の移植骨やインプラントを摘出する

サイナスリフトやソケットリフトによって上顎洞内に骨補填材を入れた状態で上顎洞炎が蔓延した場合は、上顎洞内に入れた骨補填材が感染している場合多いので、骨補填材やインプラントを摘出します。

上顎洞底骨の厚みとインプラント

人が食事で肉など硬い物を噛み切る場合、通常自分の体重程度の力をかけて噛み切ると言われています。

一方、取り外し式の入れ歯では15kg程度の力をかけると顎の粘膜に痛みが出て、それ以上の力で噛むことは困難だと言われています。

歯が無くなった場合に入れ歯ではなくインプラントに人気が集まっているのは、インプラントであれば自分の歯と同じように硬い食べ物も不自由なく食べることが出来るからです。

奥歯のすぐ上は骨の厚みがない

ところが、上顎の奥歯(臼歯)を失った場合、奥歯(臼歯)のすぐ上には上顎洞という大きな空洞があるので、骨の厚みはあまりありません。

また奥歯(臼歯)を抜いてしまうと歯を支えていた歯槽骨は吸収して量がますます減ってしまいます。そして最終的な骨の厚みは吸収して減少してしまい5mm〜7mm程度ほどしか残りません。また1mm〜2mmくらいしか残らないことも珍しくありません。

一方、インプラントを長期に使う為には10mm程度の長さのインプラントが骨に埋まっている状態が望ましいとされています。

骨折が原因でインプラントが骨から脱落する

噛む力などインプラントにかかる荷重はインプラント表面から骨に伝わりますが、狭い面積の骨に大きな荷重がかかると、骨の骨梁などに微細な骨折が起こり、インプラントを支えている骨自体が吸収して無くなってしまいインプラントが骨から脱落してしまうのです。

上顎洞内に骨を造る方法がサイナスリフト

そこで上顎の奥歯にインプラントを埋める場合には十分な長さ(10mm程度)のインプラントを埋める為に、あらかじめ上顎洞内に骨を造った上でインプラントを埋めることが行われます。この上顎洞内に骨を作る方法をサイナスリフトと呼んでいます。

サイナスリフトには上顎洞側壁に穴を開けて骨補填材を入れるラテラルアプローチテクニックとインプラントを埋める穴から骨補填材を入れるクリスタルアプローチテクニックがあります。

ラテラルアプローチテクニックによるサイナスリフト(一般的なサイナスリフト)

ラテラルアプローチテクニックはサイナスリフトの基本形です。残存骨の厚みが1mm程度しかない場合でも適応できる万能な方法でサイナスリフトの王道です。

上顎洞側壁に親指大の穴を開け、直接目で確認しながら上顎洞の内部を覆うシュナイダー膜を剥離挙上した空洞である、シュナイダー膜と骨の間に出来た空間に骨補填材を充填します。

これらの作業を直接目で確認しながら手術がおこなえるので、シュナイダー膜が破れた場合でも容易に対処が可能な上に十分な量の骨造成が出来るので、大学病院などで広く一般的に選択される手法です。

サイナスリフトを行なって骨が出来てくるのに通常6ヶ月程度かかります。インプラント埋入は骨が出来た量をCTで確認してから、上顎洞粘膜に対してインプラントの先端部が接触しない長さのインプラントを設定して行います。

インプラントの先端部が骨を介在しない状態で上顎洞粘膜に接触したり、上顎洞内に突出した状態の場合はインプラント治療終了後に感冒などで上顎洞炎になった場合にインプラント表面が細菌によって汚染され、新たな感染源になってしまう可能性があるからです。

上顎洞内に移植された骨補填剤が完全に固くなるのにはインプラントを埋入してから6ヶ月程度必要となります。

また、インプラントのオッセオインテグレーションが完全に達成されるのにも6ヶ月程度必要ですので、トータルでは最初にサイナスリフトを行なってからインプラントに荷重をかけることが出来るまでには12ヶ月程度の期間が必要となりますが、最も確実な方法と言われています。

クリスタルアプローチテクニックによるサイナスリフト(一般的にはソケットリフトと呼ばれています。)

ラテラルアプローチテクニックによるサイナスリフトはサイナスリフトの王道ですが上顎洞を大きく開けますので手術を安全に行う為にはクリーンルーム化された手術室での手術が望まれます。

また、手術を明示野で直接、目で確認しながら行うので粘膜の剥離範囲も広くなり、普段、外科手術に慣れていない歯科医師には手に余るという側面があります。

そこで、少ない手術侵襲でサイナスリフトを行うことができる方法ということで比較的インプラント経験の少ない先生の中で広まってきました。

サイナスリフトとソケットリフトの違い

しかし、ラテラルアプローチテクニックがサイナスリフトの王道だとすると、ソケットリフトはいろいろ劣る点があります。ソケットリフトは骨補填剤を入れる行為とインプラントを埋入する行為を同時に行いますが、その際にインプラントがしっかり既存骨に固定されていて動かない必要があります。

その為には既存骨の厚みが最低5mm必要だと言われています。しかし、現実的には5mmの骨量が残っている場合は多くはなく、残存骨の厚みが1mm程度しか残っていない場合でも行われている場合もあるようです。

インプラントにまつわるトラブルの中で現在最も報告が多いのが、ソケットリフトを行なったがシュナイダー膜が破れて骨補填材が上顎洞内に漏れてしまい、それが感染源となって上顎洞炎を起こした事例や、ソケットリフトでインプラント体が上顎洞内に落ちてしまったなどの事例が多数報告されています。

ソケットリフトは小さな穴から手術を行いますので、手術野を見ながら手術をすることができません。シュナイダー膜が手術中に破れても分かりません。手術が終了して術後CTを撮影して、ようやくシュナイダー膜が破れて骨補填材が上顎洞内に漏れていることが分かります。

日本口腔インプラント学会で召喚講演したインプラント治療に詳しい耳鼻科医師の見解としては、サイナスリフトとインプラント埋入を同時に行うことは上顎洞炎になるリスクが高くなるのでやめた方が良いとのことでした。

ラテラルアプローチテクニックが望ましい

つまり、ラテラルアプローチテクニックのサイナスリフトよりソケットリフトの方がトラブルが起こる確率が高いのでラテラルアプローチテクニックの方が望ましいとのことでした。

また、ソケットリフトによって行われたインプラント埋入はインプラントの先端部が骨を介さずに上顎洞粘膜に直接接触する場合が多く、感冒などによりインプラントが後天的に感染源になるリスクがあるとのことでした。

ソケットリフトが一概に悪いという訳ではありませんが、サイナスリフトをきちんとできない実力がない歯科医師が「手軽」というイメージでソケットリフトを選択することが多いのがトラブルが多いことと関係しているのかもしれません。

インプラント治療を受ける上での注意点

インプラント治療を受ける上で、注意すべき点ですが、インプラントを専門に行なっている医院では半数以上の症例でサイナスリフトやGBRなどの骨造成を行なっているとの報告があります。

つまり、骨量が十分にあって骨移植が必要で無い症例は少ないのが現実です。

また、現時点では骨量が十分ある部位でのインプラント治療でも、次に別の歯がダメになりインプラント治療が必要となった場合にはサイナスリフトやGBRなどの骨造成が必要な場合が珍しくありません。

しかし一口腔内のインプラント治療は同一医師による同一インプラントメーカーのインプラントを使用した治療が望ましいのです。

そのような訳でインプラント治療を行う場合には簡単な症例でもラテラルアプローチによるサイナスリフトを日常的に行なっているベテランの歯科医師によって行われることが望ましいと考えられます。

参考文献

自分の歯の状態に近いオールオン4の症例は?